弁護士の今後についてです。なお先に言っておきますが私は弁護士ではありません。
今後も弁護士数は増加の一途
昨年までの推移を見ると一目瞭然ですが、弁護士の数はどんどん増えています。特に2005年を過ぎたあたりから上昇カーブの角度が上がっていますが、これは新司法試験やロースクールなど、様々な制度が司法制度改革により実施された影響です。
では今後はどうなるのかというと、弁護士白書においては1,500人/年ずつの司法試験合格を前提としてシミュレーションが行われており、2050年あたりまでは弁護士数は増え続けることとなっています。
一方で日本の人口は減少していくので、弁護士1人あたりの国民数は現在の半分くらいまで下がる計算となっています。
市場には大きな変化無し
市場の方はどうでしょうか。元々「司法を身近にする」というのが司法制度改革の趣旨なので、額面通りに取れば市場は拡大しているはずです。
そこで,司法の機能を充実強化し,国民が身近に利用することができ,社会の法的ニーズに的確にこたえることができる司法制度を構築していくことが必要とされているのです。
法務省ホームページ「司法制度改革について」から一部抜粋
しかしながら下記を見ると、弁護士活動※による収入・所得は低下傾向にあります。調査数が少ないので何ともいえないところはありますが。
※「弁護士活動による」もののみとしており、例えば弁護士が事業会社の役員を務めている場合の報酬等は除いているものと思われます。
弁護士数と弁護士活動による収入から、総市場が推計出来ます。また、日本の総人口から1人あたりの弁護士への支払い金額※も推計出来るので見てみましょう。
※弁護士自身も総人口に含まれること、外国人からの依頼による収入も「弁護士活動による収入」に含まれると推測されることから正確性はありませんが参考程度に。
先ほどと同様のデータなので母数が少ないのですが、微増程度に留まっています。直近の4年間では約2%の増となっているものの、弁護士数は2014年35,045名→2018年40,066名と15%近い増になっており、弁護士数の増に市場の増加が追い付いていません。
直近での弁護士数の増が著しいことから、経験が乏しく先輩弁護士のフォローを受けながら執務を行う弁護士が多く、結果的に生産性が下がっているためとも取れますが、あまり楽観視しない方が良いと思います。
特にこれから弁護士になる、今後独立を考えているといった方にとっては厳しい環境と言えるでしょう。待っていれば依頼が来るという時代では既にありませんが、更に競争が激化していくものと想定されます。
今後何に注力すべきか
直近の収益を確保するための個別の開拓手法についてはHPの整備やポータルサイトへの登録などでもまだまだ開拓余地はあると思いますし、そもそも活動エリアや分野によっても変わってくるので中長期的な視点のご紹介に留めたいと思います。
弁護士の成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスを改変しただけのものですが汗
既存市場で戦う
「シェアの奪い合い」という最もオーソドックスな手法で、多くの事務所はこの戦略を取っています。
都市部の場合はポジショニングが重要になるので「得意分野を目立たせる(「専門」とは言ってはいけない)」「ポータルサイト等のライティングを意識する」といった活動になり、弁護士が少ない地域ではニーズのある方全てにリーチするため「行政など人が集まるところを意識して導線を設ける」といった活動になりますが、他でもさんざん言われていることなので割愛します。
但し人口が少ない地域などの場合は特に、既存市場だけでは全ての需要にお応えしても収益が足りないという事態も起こりうるため「自身の商圏規模」はウォッチしておくべきでしょう。
また、この戦略だけでは10年・20年後厳しくなってくるのは冒頭に紹介した通りです。
新規市場を開拓
元々の司法制度改革の趣旨からしても、ここに注力するのが本来のあるべき姿かと思います。
「新規市場」と言っていますが新しいサービスを出すとかいった話ではなく、「従来は弁護士に頼っていなかったような悩みを弁護士に相談してもらう」といった、乱暴な表現をすれば「需要の掘り起こし」です。
これまでの新規市場開拓
今ではすっかり一般化した「無料相談」もこの営みのひとつと言えます。「弁護士に相談するとお金がかかるし・・・」と思っていた方が「無料なら」と思って相談し、そこで弁護士に依頼するメリットを知り依頼につながるという仕組みです。
弁護士ドットコムなどのポータルサイトの台頭も、弁護士を検索しやすくなることで透明性が高まり、依頼の裾野を広げたと思います。
とはいえこのような営みがあった上での先ほどお伝えした現状なので、さらなる新規市場開拓には他の手立てが必要になります。
今後の新規市場開拓に必要な視点
上の2つの事例は「弁護士に相談したいがハードルが高い」という問題の解決であったため、今後は「そもそも弁護士に相談する選択肢が無い」方へのアプローチが必要となると考えます。
交通事故や債務整理について「弁護士」という選択肢が出ない方は少ないでしょうから、「弁護士」が選択肢にあがりづらい案件を考えることになります。
最近では弁護士が依頼を受けて代わりに退職の交渉を行う「退職代行」が話題になりましたが、これもそのひとつです。賛否ありますが、退職すると言い出すのが怖くて精神を病んでしまうくらいなら専門家に依頼してでも退職してしまった方が良いと思います。
また、SNSでのトラブルも多い昨今ですので、SNSでの誹謗中傷その他についても弁護士をつけるケースがますます増えてくるのではないかと思います。後は今後増えそうなのはAI・IoT絡みのトラブルなどでしょうか。例えば融資審査のAIなどで、出身地など本人の資質に拠らない要素についての重みづけが強く、不平等な扱いを被った場合は訴訟に発展することも考えられます。
他にも私では思いつかないような様々な新しい分野で弁護士が活躍出来ると思いますが、そのような分野を見つけるためには、法律だけでなく幅広いジャンルの知識・情報を日々収集する必要があります。
弁護士市場以外への進出
訴訟対応や法律相談など、弁護士活動以外での収益を産むという発想もあります。
有名なのは弁護士法人法律事務所オーセンスの代表弁護士である元榮先生が立ち上げた弁護士ドットコムですが、他にもGVA法律事務所の山本先生がGVA TECH株式会社を立ち上げ、AI-CONというAIによる契約書レビュー等のサービスを提供されています。
このAI-CONや弁護士ドットコムのクラウドサインなど、法律とIT技術を結ぶサービスを「リーガルテック」と呼んでいます。
リーガルテックに限る必要は必ずしもないのですが、弁護士が強いのはやはり「法律」になるので、法律を活かしたサービスを考えるのがまずは良いと思います。
個人事務所など、費用や人的リソースで無理が生じる場合は他の弁護士等と協力してサービスを創り出すことも考慮の余地はありますし、ユーザに必要とされるサービスであればクラウドファンディングによる資金調達も出来るかもしれません。
進出を考える前に注意
基本的には本業(弁護士活動)があってこその新サービスです。本業がおぼついていない時はまだリソースを分散すべきではありません。どっちつかずになるのが一番危険だからです。
先ほどの弁護士市場の現状を見ても、確りと活動していれば現状は充分な売上が見込めることから、まずは本業で足元を固めてから、将来の市場縮小に備えた準備をするのが良いと考えます。
他業界との交流がより重要に
事業会社を作ってリーガルテックのサービスを提供しようと思うと経営の専門家やエンジニア、マーケターの手を借りる必要があります。
SNSトラブルやAI・IoT問題など、新分野の法律問題に対応するにもSNSやAI・IoTの技術者や専門家に最新動向を聞いたりすることで弁護士が役立てることへの気づきがあるかもしれません。
いずれにしても、弁護士同士のコミュニケーションしか無いという状況ではなかなか取り組みが進まないので、他業界との交流も今のうちから持っておくのが良いかと思います。