先日、スマートフォン向けゲームの開発を扱う株式会社コロプラにて、従業員が他社に依頼し、自社費用でゲームに課金してもらったことが発覚したとのニュースがありました。
役職者を含む従業員2名が関与し、セールスランキングの操作を目的として自社費用 850 万円をもって自社ゲームタイトル「最果てのバベル」に課金することを取引先に依頼し、2019 年 6 月 13 日に取引先が課金を実施した疑いが判明しました。
株式会社コロプラ2019/6/21ニュースリリース「当社従業員による不適切な取引について」より抜粋
最果てのバベルは6/12にリリースされたばかりでした。
真偽や詳細はわかりかねるところがありますが、今回の件が真実ならば循環取引にあたります。循環取引がどういった取引なのか、どのような影響があるのか解説したいと思います。
循環取引とは
最初の売主と最後の買主が同じ取引
今回のコロプラの件がまさに循環取引なので説明のしようが無いですが、企業Aが企業Bに対し金銭その他を渡し、企業Bがそれを原資に企業Aの商品を購入するなどして便宜を図る行為を指します。
今回の件ではどうだったかわかりませんが、企業Bがマージンを得ることも多いです。また、3社間以上で行われる場合もあります。むしろ一般に「循環取引」というと3社以上をイメージされる方が多いと思います。
循環すれば全て違法、ではない
上記のような円環での取引が全て違法なのかというとそういうわけでもありません。
違法にならないケースの例
例えば今回のケースと同様にスマホアプリで考えると、企業Aがスマホアプリを販売するにあたってデザイナーのBさんにキャラデザインを発注するとします。この時点でA→Bに支払いが発生します。
その後スマホアプリが無事にリリースされてBさんも遊び、課金したとすると今度はB→Aに支払いが発生するので円環が成立します。
が、それで違法とされてしまってはBさんは自分でデザインしたキャラが登場するゲームも遊べないのかという話になってしまいます。
問題は不正を意図しているかどうか
特段「これが循環取引だ!」と明確な線引きがあるわけではありません。不正に売上を操作しようとしているといった、悪意があるかどうかがポイントとなるでしょう。
今回のケースでは、自社の費用をダイレクトに自社の売上にしてもらおうという取引になるので不正を意図していたといえます。
循環取引がなぜ悪いのか
「不正だからそりゃ悪いんでしょ」と言われればその通りですが、不正を働いた本人以外へ及ぼす悪影響を考えてみましょう。
ポイントは「判断を誤る」です。
購入判断を誤る
まずはなんといってもユーザへの悪影響です。
google playなどのプラットフォームには「売上ランキング」があります。ここで上位にあると人気アプリなのだなと思いますし、そもそも目に触れる頻度が高まります。
これが不正に操作されたとなるとユーザがアプリを選ぶ時の判断が狂わされたとも言えます。今回の額でそこまでランキングに差が出るのかはさておいて。
今後の購入判断にも影響する
逆に、この事件を経て「最果てのバベル」を見て「不正があったアプリかー、やめとこ」と思うユーザも出てくるかもしれません。
「最果てのバベル」がそのユーザにマッチするとしたら、せっかくのチャンスをお互いに逃してしまうわけです。
ちなみにこの事件がある前から少しプレイしていますが、昔ながらのRPGチックなストーリーをスマホにうまく落とし込んだゲームだと思いますので、ハマる方は多いと思いますよ。(宣伝ではない)
投資判断を誤る
次に投資家にとっての悪影響です。今回のケースではコロプラの売上が約450億(2018/9期)ある中での850万円なので大した影響はないかもしれませんが、売上が10億の会社で5億の循環取引が行われることだって起こりうるわけです。
そうすると「前年から5割も売り上げが拡大している!買いだ!」と思って投資したものの、実際の売上は前年の横ばいだったなんてことにつながるわけです。利益の額は変わらなくても、売上が伸びていれば「先行投資で費用もかさんでいるが来期は費用が落ち着いて利益が出るんだろうな」などと分析されることもあります。
また、損益計算書の数字だけを見て投資判断するわけでもありません。今回だと、「最果てのバベル」が好調に滑り出したことを判断材料として購入する投資家が居てもおかしくはなかったわけです。循環取引を除いてもおそらく好調なんだろうと思いますが。
経営判断を誤る
件のコロプラですが、「最果てのバベル」以外にも「魔法使いと黒猫のウィズ」「白猫プロジェクト」「白猫テニス」など、様々な人気アプリを輩出しています。
リリース当初は結構やってましたが、ウィズは黒猫から元に戻れたのだろうか・・・。
また、先日発表された「ドラゴンクエストウォーク」の開発を担当していることも判明しています。
そうすると経営陣としてはどのアプリに資源を投資するか考えないといけないわけですが、その際に不正による売上が混ざっていると誤った経営判断につながりかねません。
極論を言えば、初週に10億円の売上を上げて「人気アプリになった!これを事業の中心としよう!」とか思っていたら、実際は全て循環取引による売上で、実際には課金しているユーザは1人もいなかったみたいなことにもなりうるわけです。実際はgoogleやappleといったプラットフォーマーが中抜きするので、先に資金がショートすると思いますが。
循環取引を防止するには
チェック体制を強化
各々の取引自体に違法性は無い場合もあり、物理的に防ぐことはほぼ不可能なので、「循環取引にならないのか」とチェックする機能が必要になります。
まずは複数名で確認することをルール化することが望ましく、決裁ルートを決めることが必要です。但し今回のケースの場合は「2名によるもの」とあるため、例えば担当者が起案し課長が承認する、といった決裁ルートでは防げません。
さらに上の役職(部長など)まで決裁ルートを延ばすことも考えられますが、少額の決裁まで部長決裁としてしまうとそれはそれで業務が回らなくなる可能性があります。
経理担当の権能を強化
私がアドバイスするなら、経理担当の充実です。
具体的には、開発や営業とは別個の独立した組織として経理担当を置きます。その上で、金銭のやり取りが発生する取引においては経理担当の合議が決裁に必要とすることで、決裁の時点で不正が無いかを複数視点から確認出来るようにします。
また、なれ合いが起きないよう、経理担当は数年ごとにローテーションすることが理想ではありますがこれは従業員規模等にもよります。
長期的には悪影響しかない
ユーザ、投資家、経営層にとっての悪影響を紹介しましたが、これらの悪影響は循環取引が発覚しようとしまいと起こりうることです。誤った判断をさせることには変わりありません。
短期的にはユーザや投資家は集まってくるかもしれませんが、結局面白くなければユーザも離れていきますし、その後投資家も離れていきます。
広告戦略でも同じことが言えますが、広告の場合は「広告による売上増」だとわかっていれば経営層も何かしら対策を考えます。しかしながら循環取引による売上増だと、その当時売上が拡大した要因が誰にも判断できなくなってしまうため、その後改善のしようがなくなってしまいます。(社員全員が循環取引を把握していたなら別ですが、それはそれでコンプライアンス上大問題です)
当たり前の結論ですが、面白いゲームを作り、それを広告その他の手段で面白いと感じてもらえるユーザに伝えるということがやはり大切なのです。