第3弾はWiiを考えます。そういえば大学のゼミでイノベーションを扱った際も題材はWiiだった気がします。
平成10年以降しばらくはプレイステーションの全盛期
Wiiの発売前のゲーム機市場はSONYの独壇場となっていました。
※元データが公式発表値かどうか定かでないので数値は載せていません。
訂正 和暦が一年ずつずれています。正しくはH12~H17です。
前回触れた通り、SFCの技術に限界が来た後、PS1が代替技術として確固たる地位を固めるわけですが、PS1からの代替技術としては順当な進化を遂げたPS2が台頭します。
任天堂も対抗策としてGC(ゲームキューブ)を発売しますが、技術進歩の面ではPS1を土台としたPS2が市場に受け入れられ、SONYの牙城を崩すには至りませんでした。
平成18年:Wiiの発売
そんな中登場したのがWiiです。このWiiの発売により、ゲーム機市場は大きく様変わりします。
プレイステーション3とほぼ同時に発売
訂正 Wiiの国内発売日は2006/12/6です。
今回も任天堂に先んじてSONYがプレイステーション3を発売しています。しかしながら今回はWiiがPS3の売上を上回り、PS2の次の時代は中心ハードがPS3ではなくWiiと言われるようになりました。
なぜPS3ではなくWiiが受け入れられたのか
プレイステーション3は性能や使い勝手、発売ソフト等々に関してはほぼプレイステーション2からの順当進化と言えるものでした。
前回取り上げたファイナルファンタジーも、PS2では10~12、PS3では13が発売され、ハードの性能を最大限発揮していました。
特にFF13に関してはストーリーが一本道だなんだと批判の声もありましたが、グラフィックとしてはハードの性能向上を十分に感じられるものであったと思います。
しかしながら市場に受け入れられたのはWiiでした。この要因をイノベーションの観点から考えてみたいと思います。
破壊的イノベーションとは
性能以外のメリットを市場にもたらす
今回も「イノベーションのジレンマ」から引用します。せっかく買いなおしたので
時として「破壊的技術」が現れる。これは、少なくとも短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーションである。皮肉なことに、本書で取りあげた各事例では、大手企業を失敗に導いたのは破壊的技術にほかならない。
翔泳社 「イノベーションのジレンマ 増補改訂版」初版 9P
破壊的技術は、従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす。一般的に、破壊的技術の性能が既存製品の性能を下回るのは、主流市場での話である。しかし、破壊的技術には、そのほかに、主流から外れた少数の、たいていは新しい顧客に評価される特長がある。破壊的技術を利用した製品のほうが通常は低価格、シンプル、小型で、使い勝手がよい場合が多い。
前回紹介した「持続的イノベーション」は順当な性能の進化をもたらす一方で、この「破壊的イノベーション」は性能はむしろ退化し、別のメリットを市場に提供するのが特徴です。
WiiとPS3のスペック比較
スペックはPS3が上回る一方Wiiは価格面に強み
あまり細かい話をしても仕方ない(というか私がわからない)ので、ざっと紹介すると、グラフィックや音声出力に関してはPS3に分があります。CPU等についてはWiiが非公開なのですが、おそらくこれらについてもPS3の方が勝っているかと思われます。
逆にWiiが勝っているのは価格で、発売時定価はPS3が20GBモデル49,980円・60GBモデル59,980円であったところ、Wiiは25,000円となっていました。ここにも先ほど挙げた破壊的イノベーションの特徴が現れていますね。
Wiiはシンプルさが魅力
プレイステーションはグラフィック等、性能を進化させつつ操作に関してもどんどん細かい操作が出来るようになっていきました。
しかしながらその代償として、複雑になっていきとっつきづらくなってしまいます。ボタンで考えても、ファミコンは十字キーとABボタン、スタート・セレクト程度でしたがPS3では十字キーに〇×□△ボタン、L1L2R1R2ボタン、スタート・セレクト・PSボタンに加えて左右のアナログスティック、L3R3ボタンが付いています。
https://www.amazon.co.jp/ファミコン-コントローラー-1P【任天堂】-ファミリーコンピュータ-Nintedo-コントローラ/dp/B07BYRL5PM
https://www.amazon.co.jp/ソニー・インタラクティブエンタテインメント-13695661-ワイヤレスコントローラ-DUALSHOCK3-ブラック/dp/B000X1YEU8
これをシンプルにしたのがWiiで、ボタンもPS3に比べれば少ないですし、モーションコントローラーにより、感覚的に振って遊べるという点が評価され、ゲームをしてこなかった層にも遊ばれ、家族で遊べるハードとして人気を博す結果になりました。
なぜSONYはWiiを出せなかったのか
スペックが劣ったハードに負けたということで、それならSONYでもWiiのようなゲーム機が作れたはずではないかと思われるかもしれません。
しかしながら、ここにイノベーションの難しさが見られるのです。
持続的イノベーションが失敗する要因
顧客と投資家への依存
企業としてまず重視するのは自社に利益(キャッシュ)をもたらす存在である顧客、そして投資家です。
今回のSONYのケースでいえばPS2ユーザや投資家の声を最大限反映してPS3を作るわけですが、相手は「ゲーム慣れしているユーザ」です。そうするとなかなかWiiのように、シンプルなゲーム機を作るという決断は下しづらいでしょう。
投資家としても、順当な後継機の方が売上が予測しやすいため、やはり抜本的な仕様変更は受け入れられづらいでしょう。
市場が読みづらく、自社の成長に寄与するか判断出来ない
PS⇒PS2⇒PS3と進む分には、想定するターゲットも変わらないのである程度の需要は見込めます。
しかしここで全く異なるターゲットを対象にした場合、どの程度の需要があるかはっきりしなくなります。SONYほどの規模になってくると、ニッチ市場を攻めてもほぼ利益に寄与しないので、ある程度規模が見込める市場以外への進出は難しくなります。
任天堂も大きいだろうと言われればその通りですが、任天堂は当時市場シェアが著しく下がっていたので、チャレンジャーとして新たな市場を攻める土台が出来ており、逆にそれが功を奏したと言えます。
技術の供給が市場の需要を超える
市場が成熟してくると、顧客が製品を選択する際の基準にも変化が見られるとされます。
性能差の優先順位が下がり、信頼性や価格といった要素の優先順位が上がっていきます。価格は先に述べた通りですし、「家族」というターゲットからすると、ファミコンやゲームボーイで積み上げた任天堂の信頼性も後押しとして機能したのかもしれません。
組織の価値基準
PS3を開発する際に重視したポイントとWiiのポイントが異なることはここまでで何となく感じられるかと思います。そして、PS3のポイントはPS1やPS2のポイントから変わらず、同じ評価ポイントを純粋に進化させていったことが想定されます。
ここで組織の価値基準が出てくるのですが、どうしても今までと全く異なる評価ポイントを組織全体の意思決定に持ち込むことは難しいです。SONYのような大企業ともなるとなおさらその傾向は強まります。
先に挙げた3点をSONYが任天堂に先んじて産み出せなかった要因は「組織」にあるとも言えます。
正しく意思決定をしても失敗する
Wiiに市場シェアを奪われたからといって、PS3の戦略が誤っていたということではありません。
PS1⇒PS2の移行期は同様の意思決定を行って成功しているわけで、PS3を出す際に急に舵を他の方向に切るのは得策と言えません。今考えると得策だったかもしれませんが、当時にそれをしても批判が相次いだでしょう。
この難しさを著したのが「イノベーションのジレンマ」です。よく取り上げられる書籍なので興味があれば読んでみてください。
次回はソーシャルゲームへ
若干時期的な前後が出そうですが、次回はソーシャルゲームの台頭を取り上げたいと思います。